プロレスのミドコロ

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オカダ・カズチカの涙~『超人』という呪縛からの解放~

『NEW JAPAN CUP』最終日のメインイベント終了後、

オカダ・カズチカ選手は放送席にいた柴田勝頼選手と握手しました。

そして、コメントブースで柴田選手との握手に話題が及ぶと、

思わず涙しました。

それはプロレスラーが抱え続けなければならない宿命と、
深い関係があるのではないかと思います。

 柴田選手の離脱から始まる論争

2年前の『NEW JAPAN CUP』を制した柴田勝頼選手は、
IWGPヘビー」「IWGPインターコンチネンタル」「NEVER無差別級」
どのベルトに挑戦するかを選択する権利を得ます。

柴田選手は迷うことなく「IWGPヘビー」を選択。
そしてチャンピオンはオカダ選手でした。

2017年3月、2人はタイトルマッチを行いました。
試合は、柴田選手の得意とする喧嘩ファイトにオカダ選手も付き合い、
そのうえで「レインメーカー」で防衛に成功します。
柴田選手は、
最後の「レインメーカー」にもエルボーを合わせようとしましたが、
ダメージで身体が動かず、モロに喰らっていました。

試合後、柴田選手は倒れ救急搬送。
現在、柴田選手は「新日本プロレス ロサンゼルス道場」のコーチをしていますが、
試合には復帰できていません。

柴田選手が長期欠場となる少し前には、
本間朋晃選手が邪道選手の技を喰らって大怪我をしており、
相次ぐ欠場となってしまいました。

WWEへと旅立った中邑真輔選手も、この相次ぐ欠場に反応。
「柴田選手の受け身は以前から危ないと感じていた」とコメントし、
危険な技の応酬を考え直す時期に来ているかもしれない、
といったニュアンスの意見を発信しました。

この辺りから、
「プロレスの技はどうあるべきか」
のような論争がファンの間でもなされるようになりました。


中邑選手の意図は別のところにあったはず。
「受け身が危ない」、は受け損ねたではなく、
長年のダメージが蓄積してしまうという意味も含まれていたのではないか、
と個人的には理解しているのですが、
世間の一部はそう理解せず、
危ない技を喰らって、案の定けがをした、
という捉え方になってしまった気がします。


「プロレス」=「危険」という
単純明快でありつつ、
多くの誤解を引き起こしそうな方程式が成り立ちそうでした。

プロレスという競技の特性

入門者は受け身を徹底的にやらされ、
受け身ができない人はデビューできない、と聞きます。

競技自体に、相手の攻撃を受け止める特性がある以上、
ごく当たり前のことであり、
それをクリアした限られた人間だけがプロレスラーとして認められる。

そしてリング上の危機管理は、
周りで見ているファン以上に、
プロレス団体の方が頭を働かせているはずです。


一方でプロレスラーの事故はゼロではなく、
近年でいえば、ノアの三沢光晴選手が亡くなっています。

だからこの論争は永遠に続いていくものだと思うし、
それが良い形でさらなる危機管理につながっていけばいいな、
とは思っています。

オカダ選手の覚悟

前述した論争の際、
「そうじゃないんだよ」ということをファンに伝えるために、
多くのレスラーがコメントでフォローをしようとします。
しかし、見方によっては「火消し」に躍起になっているようにも感じられ、
火に油を注ぎかねない状況でした。

2017年6月、
IWGPヘビー級タイトルマッチで防衛したオカダ選手は、
リング上から発言します。

「プロレスラーは超人です」
「どんな技を喰らっても、立ち上がります」と

誰よりも、何よりも、説得力のある言葉でした。

一番悩んだのは、
柴田選手に最終的なダメージを与えてしまった、
オカダ選手本人であっただろうに。

試合後のコメントブースでは、
会社に対して「全力でレスラーを守ってください」とコメント。

ほぼ完ぺきな形で論争に終止符を打ってくれました。

振り返ると、
ここからオカダ選手は『超人』であり続けたんだな、
と、そう思います。

『超人』という呪縛からの解放

怪我をしてしまった選手は、きっと自分の受け身の拙さを責めるのだろう。

でも怪我の引き金を引いた選手は、そこにとらわれ続けてしまうのでしょう。

それを抱えながら、相手に技を繰り出し続けなければならないのは、
正に宿命。

プロレスラーという職業を選んだ人は、
それでも観客にプロレスを提供し続けなければいけないのだと思います。

『NEW JAPAN CUP』決勝戦終了後、
放送席で解説をしていた柴田選手は、
オカダ選手と握手し、健闘を称えます。

そして、マディソン・スクウェア・ガーデンに応援に行くことを約束します。


怪我をさせた相手は、まだプロレスができない状況。
それでも、自分のことを評価し応援してくれる。

恨まれてはいないと分かっていても、
その相手に背中を押してもらえたとなれば・・・

オカダ選手の涙の意味は、
とても深い感情が抑え切れなかったのでしょう。

一瞬だったのかもしれないけど、
それは『超人』という呪縛から解放された時間だったのだと思います。


戦った者同士にしかわからないドラマを、
こうやってファンが共有できるのも、
プロレスのいいところですよね。

そしてお涙頂戴ばかりではなく、
ヒールレスラーであるタイチ選手は本間選手に対し、
「もう一回病院送りにしてやる」と平然と言ってのけます。

でもこれもきっと、
相手に対してはっぱをかけつつ、
「遠慮せずに行くからな」というサイン。


ギリギリのところで戦って、
ファンを魅了し続けてくれるレスラー達を、
私はこれからも応援し続けたいと思います。